執着心を解き放つ

中国ビザを申請できない(涙)。
来週の中国出張のため、昨夜からパソコンで中国ビザの申請書に入力した。中国のシステムは非常にやりにくく毎回ストレスフルなのだが、もう何度もやっているのでやり方はわかっている。
何度かやり直しつつ申請書を完成させ、最後のプロセス、PCへのダウンロードができない。昨夜4時間ほとかけてやってもダメ。今朝もう一度トライしてもダメ。今まで、こんなことはなかった。
これが出来ないと今回の中国出張ができなくなる。3日間のワークショップと学会講演、ふたつの大きな仕事が出来なくなる。
なぜダウンロード出来ないんだろう??
こっちになにか不具合があるからか?、中国ビザセンターのサイトの問題なのか?
前者ではないはずなのだが。。。後者であることを期待して、申請書をダウンロードできないまま、高山村から新幹線で東京の中国ビザセンターまで行ってみる。ムダ足を覚悟して。

この苦しさは15年前に優子を突然亡くし、その後しばらく仕事が出来なかった状況と似ている。
ビザが取れないことがそんな大したことなのか?
妻を亡くすことは相当大したことなのは普通わかる。
それに比べてビザくらい、中国出張を諦めればイイことのだけなのに。それによって人生が変わるわけでも、今後何かが変わるわけでもない。妻を亡くしたことに比べれば全然大したことないのは自分でも客観的に見れば当然のこと。
妻への愛着を諦めるのと、中国出張を諦めるのでは全然レベルが違うのだが、オレの頭の中の状況は似ている。
そのことに囚われ、他のことが出来なくなる。そのことばかり考えて他のことを考えられなくなる。

15年前に妻を亡くした一週間後にあった仕事(入試の試験監督)は事情を説明して断った。妻を亡くしましたから、、、といえば、誰だって「無理せずお休み下さい」と言うでしょう。そりゃ引くよね。
それでも、いろんな仕事をして、子どもたち3人のひとり親をやって日常を切り盛りしなければならない。それは辛かった。悲しみに沈んで何もしない方がよっぽど楽だった。「何も出来ません」と、うつ状態に陥る。

その状況は今も同じだ。なぜ出来ないのだろう。こっちの問題かむこうの問題か。仕事を落としたらどうしよう。
朝早くから憔悴している私の姿を見て、由美は「あらぁ、出張行けなくなるの。残念ね。」
そりゃあそうなんだけど、そんな軽く言うなよ。そんな簡単に済まされることじゃないんだよ!
「そんなに中国に行きたいの⁉️」
と言われるとムカつく。由美は全然わかってない!
いや、理屈では妻の言う通り、客観的には全然大したことはない。でも心はすっかり囚われてしまっている。
妻はネットで中国ビザがうまく出来ない情報を集めてくれている。由美は優しいのね。オレの気持ちに寄り添ってくれてるのね、共感してくれるのね。
結局、新幹線の中で本を読もうと思っていたけど出来ず、こうやってケイタイのメモに書き出している。気持ちを掻き出している。落ち着いて本を読むことさえできない。

優子を亡くした時もそうだった。やるせない気持ちをブログに書き出し、表出して、なんとかやり過ごしていた。普通に活動することが、とても辛かった。

今日の午後は診療がある。
自分の心に照らし合わせると、クライエントの気持ちはよくわかる。
みんな執着しているんだ。
自分の辛かった過去に。
親から受けたトラウマに。
受け止めてくれないパートナーに。
自分が失ったものに。
自分の失敗に。
私が妻への愛着に執着するように。
中国ビザが取れないことに執着するように。

どうやったら執着から自分自身の心を解き放つことができるのか?
それはこういうことだよと合理化(理屈で説明)したり、
それは病気だよと病理化したり、
他のことを考えて忘れなさいとか、
そんな気持ちはダメですと執着心を否定しても。
心を解き放つことはできない。
その逆に、その心に深く入り込まねばならない。
ひとりだと抜け出せなくなるのでとても危険
誰かに助けてもらう
よくよくその気持ちを表して
表出するのはとても辛いので、誰か安心できる人にそばにいてもらって
受け止めてもらう
失ったものは取り戻すことは出来ない
でも執着した心は取り戻すことができる

午後になっても、まだ中国ビザ申請センターにいる。
尋常じゃない混み様だ。
午前中で何とか済ませるはずが、まる一日の仕事になってしまった。
午後の診療予約もふたりキャンセルした。
保険診療ならまだしも、自由診療で高い診察料を頂き、1時間かけて丁寧な支援をする私の仕事。クライエント側からキャンセルするのは構わないのだが、治療者から当日キャンセルというのはあってはならないこと。クライエントさんたちから信頼してもらえるセラピストでいたい。そんなプライド(執着)も手放さなければならない。

クライエントさんに連絡して丁寧に断った。
手離してしまった。
客観的に見れば、出張や診療をキャンセルすることくらい、そんな大袈裟な、人生を揺るがすといったレベルの出来事では全くないはずなのに。

心はだいぶ弱くなっているようだ。